「あれれ?君どうしたのこんな森にいるなんてさ」


アリスは先程まで居た少女の位置から真後ろへと目線を向けた。
すると、好青年という言葉がピッタリの若い男性がそこに立っていた。
服装は少し、というかかなり乱れているが……


「ビックリした〜。あのさっきそこに女の人がいましたよね?」
「ん?俺が見た時は君一人しか居なかったけど?」
「え………」


アリスの顔がどんどん蒼白になっていった。
この人の位置から見えなかったのか、私自身にしか見えなかったのか…。
出来たら前者の考えであってほしいと願っていた。
青年はチェシャ猫とは違う爽やかな笑顔でアリスの顔を覗き込んだ。


「体調でも悪いの?良かったら俺の家においで。この森を出たいんだろ?」



”この森を出たいんだろ?”



「え……今、何て」
「だ・か・ら、この森から出たいんだろ。って」


ようやくこの深い森から出られるヒントを得られたという喜びに、大きな声で返事をした。
やっとこの森から出られる!そう思うと少し涙目になっていた。


「そうだ、俺の名前はダム。トゥイードル=ダムだよ、よろしく!因みに呼び捨てでタメ口希望だから」
「私はえっと…アリス、です」
「アリ、ス?」
「どうかしたの?」
「いや……いい名前だね。さて、もう少ししたら暗くなるから行こうか」

ダムと名乗った青年が一瞬驚いていた事を気にかけていたが、ダムはアリスの手をつかんで早々と歩き始めた。
もちろん手を繋がれたアリスも早足でその後をついていった。

ダムがニヤリと薄気味悪い笑みをしているとは知らずに…………





ダムと歩き始めて約5分後に、やっと道と呼べる道に出た。
すると、ダムは前を向きながらいきなりパッと手を離した。
アリスはわけも分からず、後ろ姿のダムを不思議そうに見つめた。


「ゴメンよアリス。俺ちょっと用事を思い出したから、先に行っててくれないかな?」
「え……私、貴方の家知らないのに行ける訳」
「大丈夫!分かりやすいからさ」
「でも鍵は」
「してないから、大丈夫」


鍵かけてないって、それもそれで大丈夫ではないような………


一人で「うーん」と考えていると、いつの間にかダムはアリスから十分離れた場所に居た。
「いつの間にあんなに遠くに…」と、今まで居た場所とダムの居る場所を交互に見ていたが、ダムはニッコリと笑顔で手を振った。


「それじゃ、よろしくね」


そういうとダムは足早に去って行った。
アリスはその去って行く姿をただ呆然と眺めるだけだった。


「何か自由人っていうのかな…あぁいう人が」


すると、風が微かに吹き木がザワザワとし始めた。
先程の事を思い出し、出来るだけ安全な所に行こうと歩き始めた。

ダムは反対方向に行ったのだから、ここには誰にもいないはず。
なのに先程から誰かの視線を感じる。
アリスは足を速めた。
そしていつの間にか走っていた。


「何で、こんなにここは気味悪いのよ!あ、あれは……」


アリスが見た先には、一階建ての小さな家があった。
何故か先程まで周りに木がたくさん立っていたのだが、その家の周りにだけ木がなかった。
そしてそこだけキレイに太陽の光が差し込んでいた。
挙句の果てに、分かりやすいようにと、赤と青の旗が一番高い所で舞っていた。

速度を落としてその家を観察してみると、その家の隣には奇麗な色とりどりの花が植えられていた。
「奇麗だな〜」としゃがみ込んで眺めていると、植えられた花の隣にアリスの膝くらいまである大きな石があった。
どうやらお墓のようで先程咲いたような花が添えられていた。
色々と観察をしていると、ふいに窓から家の中で動く人影が見えた。
ダムがまたいつの間にか帰ってきたのではと思ったアリスは、ドアに向かった。

家の前で一度深呼吸をして、軽くドアをノックした。
だが暫くたっても、全く何も返事も無く、ましては開ける気配すらなかった。


「あ、あれ?確かに誰かいたよね」


試しにドアを引っ張ると、いとも簡単に開いた。
すると目の前に自分より高く黒い影があった。
目線を上にやると、眉間にしわが寄ってはいるが、先程見た顔があった。
だからつい思わず名前を呼んでしまった。


目の前の彼に対しての禁句を――――


「ダム?」


その一言を聞いた青年は更に眉間にしわを寄せて、アリスを射殺す如く強く睨み付けてきた。



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